我無ちゃんねる 〜ニュースなび〜

今回は私が感銘を受けた
一人の男の
生きざまについて
語ってみたいと思います。

以前テレビ放映された
「落日燃ゆ」
というタイトルの
主人公のことです。

それは、私は悪くない,という
思いを飲み込んだまま、

それを,
ひとコトも発することなく、
死んでいったのだ！

言い訳をせず、運命に従う潔さ

元総理で、
広田弘毅という男がいる。

東京裁判において
絞首刑に処せられた
七人のA級戦犯のうちの一人だ。

東京裁判とは、
米英ソなど
戦勝国による軍事裁判で、

敗戦国の日本が裁かれた。

裁判と言いながら、
敗者のみに
戦争責任を問うのだから、

勝ったものによる
生贄裁判と言っていいだろう。

絞首刑になったA級戦犯は、
次の七人だ。

東条英機（首相、陸軍大将）
板垣征四郎（陸相、陸軍大臣）
土肥原賢二（奉天特務機関長、陸軍大将）
松井石根（支那方面軍司令官、陸軍大将）
木村兵太郎（陸軍次官）
武藤章（第14方面軍参謀長、陸軍中将）
広田弘毅（元首相）

みてのとおり、
他の6名が
軍のトップであるのに対して、

広田弘毅は
ただ1人文官である。

外交官から
総理大臣に登りつめ、

総理退任後も御前会議や
重人会議に出席するなど

国政に重きをなしたが、

戦争に反対の
立場をとったことから、
軍部と
対立関係にあった。

広田が
無罪を主張すれば
極刑は免れただろう。

事実、広田を担当した
外国人弁護士は

「本当のことを言えば
重い刑になることはない。
そうしなさい」

と説得している。

だから広田が、

「私は戦争に反対しました、
私は悪くない」

と主張することはできたし、

その主張は
受け入れられた可能性が高い

昨今の政治スキャンダルや、
もりかけ問題に
関わった連中であれば
きっとそうしたであろう

だが広田は一切の弁明を
しなかった

意に反した戦争であろうとも
戦争を
止められなかった
ということにおいて

忸怩たる
思いがあったのだろう

私は悪くないと
無罪を主張すれば

論理的に悪いのは誰誰だ
ということになり

他人に罪を着せることになる

そのことを
広田は政治家として
潔しとは
しなかったのである

そして判決被告人たちは
アルファベット順に呼ばれ

6番目に法定に入った広田に対して
ウェブ裁判長は

デス・バイ・ハンギング

絞首刑に処すると宣告

広田は静かに
イヤホンを外すと

記者席の隅にいる二人の娘に
笑顔を送って
立ち去った

判決は11人の
判事団でされ票決された。

3人が無罪、

二人が禁固刑をそれぞれ主張。

オランダの
ベルト・レーリング判事に至っては、

広田が戦争に反対したこと、

そして彼が
平和の維持とその後の

平和の回復に
最善を尽くしたということは
疑う余地が無いと
明確に無罪を主張したが、

結局6対5という、
わずか一票差による
死刑判決であった。

キーナン首席検事も

何という馬鹿げた判決か、

がどんなに重い刑罰を考えても
終身刑までではないか

とコメントしているが、

キーナンは
戦争責任追及の強硬論者で、

被告の A 級戦犯たちに対して

彼らは誰一人として
人類の品位というものを
尊重していないと

罵倒するような男だが、

キーナンでさえ、
広田の死刑判決は
意外だったということだ 。

このことからもわかるように

広田が私は戦争に反対した
悪くないと
声を大にして訴えていれば
命は助かったことだろう。

広田の妻静子は
右翼の源流と言われる

政治結社玄洋社の
社員の娘であった。

広田も中学時代は
玄洋社の道場で
柔道を習っているし。

青年時代には聴講もしている。

GHQのノーマン調査分析課長は
玄洋社について、

日本の国家主義と
帝国主義のうちで
最も気違いじみた一派と
断じているように

玄洋社との関わりが
裁判に影響した
という見方もある。

だから、
妻の静子は
東京裁判開廷前に
自殺している。

国粋団体の幹部を親に持つ
自分の存在が

夫の裁判に
影響を与えると
考えてのことだったとされる。

それでも
広田は責任に準じた。

私は悪くないという
思いを飲み込んだまま、

それを
一言も発することなく
死んでいったのだ。